研究紹介

植物とそれを取り巻く環境は互いに複雑に影響し合っており,そのことが私たち人間生活にも大きく関わっています.生物環境調節学研究グループは,物理学と生物学を基礎として,主に,

植物と環境との相互影響の解明
植物による環境調節・環境保全
効率的な植物生産システムの構築
低炭素・循環型社会のための環境制御

に関する研究に取り組んでいます.

植物と環境との相互影響の解明
地球温暖化による植物影響の評価

CO2濃度の上昇にともなう地球温暖化が,植物生育におよぼす影響を評価するために,フィールドにおいて,気温,CO2濃度,気流速度などの環境要素を制御できる簡易実験装置を製作し,それら環境要素の複合影響を検討しました.

CO2
光環境が植物の光合成特性に及ぼす影響

光質や光強度などの物理環境が植物の光合成特性に及ぼす影響を調べた結果,遠赤色光に対する赤色光の割合が小さい光照射下では,単位葉面積あたりの最大光合成速度が大きくなることが明らかとなり,その原因として光質による葉の形態的・生理的な変化が考えられました.

<関連論文>
HortScience 45 (4): 553-558, 2010年
Photosynthetica 50 (4): 623-629,2012年
Biol. Plantarum 2014年

LED
植物の湿度応答を利用したストレス緩和

湿度変化による蒸散要求の変化は,植物のガス交換特性を変化させます.この研究では,植物を低湿度環境さらすことで,植物の蒸散特性を抑制側に変化させることができ,それによって,灌水が制限されたときの植物の障害を一時的に緩和できることを明らかにしました.

<関連論文>
HortScience 41 (2): 410-413, 2006年

humidity2
気流環境が植物のガス交換および成長におよぼす影響

気流速度は葉面に形成に形成される境界層に影響し,ひいては葉内外のガス交換に影響します.この研究では,植物個体および個体群において気流速度が光合成・蒸散に及ぼす影響を検討し,個体群構造とガス交換との複雑な相互作用を明らかにしました.

<関連論文>
Scientia Hortic. 109 (3): 218-222, 2006年

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
物理環境が気孔発達を介してガス交換に及ぼす影響

光や湿度などの物理環境要素は気孔の発達に大きく影響します.この研究では,遠赤色光に対する赤色光の割合が小さい光照射下では,植物葉の気孔密度が高くなり,蒸散速度が大きくなることで水利用効率が低下することを明らかにしました.

<関連論文>
Biol. Plantarum 2014年

stomata
植物の環境応答を介した病原菌の発育制御

物理環境による植物の形態的・生理的特性の変化は植物病原菌の発育に影響することが考えられます.キュウリうどんこ病菌を対象として検討した結果,遠赤色光に対する赤色光の割合が小さい光照射下や低湿度では,植物応答を介して病原体の発育が抑制されることが明らかとなりました.

<関連論文>
HortScience 46 (3):429-431. 2011年
Eur. J. Plant Pathol. 2014年

Powderymildew
物理環境が昆虫-植物間の相互作用に及ぼす影響

異なる環境条件で育成した植物に対するタバココナジラミの寄生状況を調べたところ,遠赤色光に対する赤色光の割合が小さい光照射下や低湿度で育成した植物は,タバココナジラミに寄生されにくいことが明らかとなり,その原因として,葉色や毛じ密度の変化が考えられました.

<関連論文>
J. Econ. Entomol.102 (6): 2265-2267, 2009年
HortTchnology 20 (5):873-876, 2010年

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
物理環境が植物応答を介してハダニ類の行動に及ぼす影響

ハダニ類は多くの植物に寄生する重要害虫として知られています.湿度環境が植物応答を介してナミハダニの産卵速度に及ぼす影響を調べた結果,低湿度で育成した植物葉においてナミハダニの産卵速度は大きくなり,その原因として毛じ密度が高いこと,葉面積あたりの乾物重が大きいことが考えられました.

<関連論文>
Journal of Economic Entomology. 2016年

mite
植物個体間の生態的相互作用に及ぼす光環境の影響

植物にとって光環境は,周辺の状況を感知し,生理・生態的適応を図るための重要な環境要素である.蛍光灯のような遠赤色光の少ない光照射下では,光による植物個体間の相互作用が起こりにくく,その結果として個体群における植物成長が不均一になりやすいことを明らかにしました.

<関連論文>
Scientia Hortic. 160: 65-69. 2013年

light competition
植物個体群における葉面コンダクタンスの連続評価

小型絶対湿度センサを用いて葉面近傍の絶対湿度を計測することで,植物周辺の環境を乱さず,葉面コンダクタンスを連続的に評価する方法を考案しました.この方法を用いて環境が大きく変動する環境での植物群落のガス交換を計測した結果,ガス交換と湿度環境,群落密度との相互作用が明らかになりました.

<関連論文>
HortScience 44 (6): 1796-1799, 2009年
HortScience 45 (3): 460-462, 2010年

conductance
葉の熱収支にもとづく気孔開度の連続モニタリング  thermo2
根圏ガス環境が植物生育に及ぼす影響

Field Crop Research 152: 36-43. 2013.

 root zone
植物による環境調節・環境保全
植林樹木のCO2固定能力の評価

植林用の樹木として利用価値の高いアカシアのCO2吸収速度を,CO2濃度と気温の異なる条件で計測して,それらの複合影響を調べました.その結果,CO2濃度の上昇によってアカシアの純光合成速度は増大しますが,その増大の割合は気温の条件によって異なることが明らかになりました.このような環境の複合的な影響を調べることは,温暖化が進行したときの樹木の CO2固定量を予測する上でとても重要です.

gas exchange
マングローブ植林技術の開発

マングローブの植林技術を確立することを目的として,胎生種子や気根におけるガス交換機能に着目し,それらの計測・解析をおこない,また,植林環境とマングローブの初期成長との関係を詳細に調べました.その結果,マングローブ幼植物の胚軸でのガス交換が根への酸素供給に重要な役割を果たしていることが示唆されました.

<関連論文>

Trees – Structure and Function 16 (2-3): 147-149, 2002.
Trees – Structure and Function 16 (2-3): 150-154, 2002.
Trees – Structure and Function 16 (2-3): 155-158, 2002.

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マングローブ幼植物のストレス耐性 Exif_JPEG_PICTURE
ナルトサワギクに及ぼす環境影響の評価

特定外来生物に指定されているナルトサワギクは,現在急速に分布域を拡大しており,より効果的な防除法が必要とされています.本研究では,ナルトサワギクの生理・生態的特性に関する基礎知見を得ることを目的として,ナルトサワギクの生育に及ぼす光や水分条件などの物理環境の影響を詳細に調べました.

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土壌ガス環境制御によるタケの成長制御

タケ植物は重要な生活資源や温室効果ガスの吸収源である一方,過繁茂によって在来の植物を駆逐することが近年問題になっており,タケ林の持続的な管理手法が求められています.この研究では,タケのガス交換特性を明らかにし,さらに,土壌被覆や有機物の投与によって,土壌中のCO2濃度を増加させることで,タケの葉面ガス交換速度を低下させ,タケの成長を抑制できることを提言しました.

Phyton-Annales Rei Botanicae 45 (4): 295-298. 2005年
Journal of Agricultural Meteorology 60 (5): 845-848. 2005年
Eco-Engineering 19 (2), 83-87. 2007年

bamboo
植物による都市熱環境調節機能の評価

屋上緑化や壁面緑化など,植物の蒸散作用による熱環境調節機能が注目されています.この研究では,建築物への熱環境負荷を軽減するための簡易な屋上栽培装置の開発や,それによる熱環境緩和効果の定量化を熱画像計測や建築物内への熱フラックス計測を通して行いました.

thermo
浮遊性シダ植物アゾラからの資源回収

アゾラは湖沼での繁茂による被害が近年問題になっている特定外来生物です.本研究では,アゾラをバイオマス資源として回収利用することを想定し,メタン発酵によって得られるエネルギー・窒素・カリウム・リン等の資源量について調べました.さらに,メタン発酵速度ならびにアゾラ増殖速度を用いた資源回収量推定モデルを構築しました.

 
効率的な植物生産システムの構築
ボトムヒート貯蔵による挿し木・接ぎ木苗生産の効率化

良質な苗を安定供給するために,苗貯蔵技術の確立は重要です.苗を一定期間貯蔵できれば,需要に応じた生産調整ができます.本研究では,低温貯蔵中に挿し穂の発根部位または接ぎ木挿し穂の接ぎ木接合部を短期間加温するボトムヒート処理によって,貯蔵後の発根または貯蔵中における接ぎ木接合部の活着を大幅に促進できることを明らかにしました.
<関連論文>
J. Japan. Soc. Hort. Sci. 76 (2): 139-143, 2007年
J. Japan. Soc. Hort. Sci. 76 (3): 217-223, 2007年
Eur. J. Hortic. Sci. 73 (5): 196-200. 2008年
J. Japan. Soc. Hort. Sci. 78 (1): 64-68, 2010年
bottom heat
 植林樹木苗の大量増殖システムの開発

CO2固定能力の高い樹木など,優れた遺伝的形質を持つ樹木が開発されつつありますが,それを大量に増殖させる技術はまだ十分とはいえません.この研究では,局所温度制御技術を用いることによって,緑化・植林用樹木苗を高速大量生産できるシステムの開発を行っています.

<関連論文>
J. For. Res. 18 (3): 279–284.2013年
New Forests 45 (4): 589-602, 2014年

sugi
半乾燥地における省資源的なサツマイモ栽培システムの開発

Eco-Engineering 26 (3), 75-80. 2014
Field Crop Research 152: 36-43. 2013.

 sweet potato
ワサビ増殖システムの開発 wasabi
微細藻類培養システムの開発

Eco-Engineering 27 (1):7-11. 2015
Environmental Technology 24: 2039-2045. 2013.

 Euglena
多段型植物生産システムの開発

光強度,温度,気流速度などが比較的均一に制御できる簡易な植物育成装置を開発しました.この装置は小型軽量なユニットを組み合わせることによって自在に規模を調節できることから,農業用の育苗装置,研究教育用の植物育成装置など,さまざまな用途への応用が考えられます.

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光質制御フィルムによる植物の生育制御

施設園芸において特定の波長域を吸収・反射させる被覆材を用いることで,照射光の光質を制御することができます.この研究では,遠赤色吸収フィルムによって照射光の遠赤色光に対する赤色光の割合を高くし,植物の形態的・生理的特性を変化させることで,病原体の発育を抑制できることを明らかにしました.

<関連論文>
HortScience in press.

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低炭素・循環型社会のための環境制御
メタン発酵・植物生産複合システムの構築

バイオマス変換技術の一つであるメタン発酵によって,農産廃棄物からメタンを含むバイオガスを生成してエネルギーを回収し,さらに肥料も生成して,植物生産に再利用するシステムの構築を行っています.廃棄物からのエネルギーおよびマテリアルの回収および利活用は,化石燃料使用の減少や廃棄物の減少を通じて低炭素・低環境負荷社会の実現を目指す,我々の未来のために必要不可欠な研究分野です.

tomato
油料植物ジャトロファの成長に及ぼす物理環境の影響

ジャトロファはトウダイグサ科の落葉低木で,その種子は油脂成分を含むため,バイオディーゼル燃料の原料として注目されています.ジャトロファは農業不適地で生育可能であることから,食用植物との農地競合を回避できると考えられています.ジャトロファの効率的な栽培技術を確立するために,土壌水分などの物理環境がジャトロファ実生の成長に及ぼす影響を調べており,土壌水分の分布が根系の発達に大きく影響を及ぼすことを明らかにしつつあります.

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油糧植物ジャトロファの挿し木繁殖技術の開発 jatropha_cutting
メタン発酵消化液を用いた養液栽培における植物の成長特性

メタン発酵の過程で生じる消化液は,窒素やカリウムなどの無機養分を豊富に含んでおり,液肥として畑地に散布利用できます.一方で,水耕栽培の培養液として用いると植物の成長は著しく阻害されます.この研究では,消化液中のアンモニウム・pH・固形分の影響を分離して植物栽培実験を行い,阻害要因として高濃度のアンモニウムの影響が支配的であることを明らかにしました.

Eco-engineering 28(3):67-72. 2016.

lettuce root
メタン発酵消化液を養液栽培に適用するための改質処理の検討

メタン発酵を資源循環技術として成立させるためには,メタン生成の副産物として生じる消化液の利用先を多様に確保する必要があります.この研究では,消化液中に含まれる高濃度のアンモニウムの硝化ならび膜ろ過といった処理を連続的に行うことで,消化液を養液栽培のための培養液に改質することに成功しました.

Journal of Residuals Science & Technology 13: 207-214. 2016.

Nitrification
閉鎖生態系生命維持システムにおける環境制御技術の構築

閉鎖生態系生命維持システムにおいて,植物は物質循環の重要な役割を担っています.この研究では,植物栽培サブシステムでの気流制御方法を検討しました.宇宙ステーションなどの無重力空間では,自然対流が起こらないことから,植物と周辺環境との熱やガスの交換を促すには気流制御が重要になります.そのことを微少重力実験で明らかにし,その結果にもとづいて植物のガス交換を効果的に促進する方法を考案しました.

Adv. Space Res., 31(1),177-182,2003年
Adv. Space Res., 34 (7), 1466-1469, 2004年
Scientia Hort. 109 (3): 218-222, 2006年
Annals of the New York Academy of Sciences 1077: 244-255, 2006年
Advances in Space Research 41 (5): 730-735, 2008年
Advances in Space Research 41 (5): 763-767, 2008年
Annals of the New York Academy of Sciences 1161, 166-172, 2009年

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